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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)362号 判決

原告 東京信用保証協会

右代表者理事 田中猛

右訴訟代理人弁護士 成富信夫

同 成富安信

同 成富信方

同 山本忠美

同 青木俊文

同 星運吉

同 高橋英一

同 田中等

被告 三井信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 生野専吉

右訴訟代理人弁護士 樋口俊二

同 相良有一郎

同 下島正

被告 東京商産株式会社

右代表者代表取締役 山中章

右訴訟代理人弁護士 雨笠宏雄

主文

東京地方裁判所が同庁昭和五〇年(ケ)第八九一号不動産任意競売事件につき作成した昭和五二年一月一三日付別紙第一売却代金交付計算書のうち順位2、4の各部分を別紙第三売却代金交付計算書のとおり変更する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  東京地方裁判所が同庁昭和五〇年(ケ)第八九一号不動産任意競売事件につき作成した昭和五二年一月一三日付別紙第一売却代金交付計算書のうち順位2、4の各部分を別紙第二売却代金交付計算書のとおり変更する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  東京地方裁判所は、被告東京商産株式会社(以下「被告東京商産」という。)の申立により、緑川義春(以下「緑川」という。)の所有であった別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)につき昭和五〇年(ケ)第八九一号事件として任意競売手続を開始し、本件不動産を競売した結果、配当期日である昭和五二年一月一三日その売却代金につき別紙第一売却代金交付計算書を作成した。

2  原告は、右配当期日に、後記3の理由により、別紙第一売却代金交付計算書に対して異議の申立をしたところ、債権者たる被告らはいずれも右異議を承認せず、右異議は完結しなかった。

3(一)  有限会社緑川製作所(以下「訴外会社」という。)は、昭和四九年四月二〇日、被告三井信託銀行株式会社(以下「被告三井信託」という。)から、金五〇〇万円を左記の約定で借り受けた。

利息 年九・九パーセント

弁済方法 昭和四九年一一月から昭和五二年五月まで各奇数月二〇日限り金三〇万円ずつ(ただし、最終回は金五〇万円)分割弁済

遅延損害金 年一四パーセント

特約 訴外会社が被告三井信託に対する債務の支払を一回でも期限に弁済しなかったときは当然期限の利益を失う

(二) 緑川は、昭和四九年四月一九日、訴外会社の被告三井信託に対する右債務の支払を担保するため、緑川所有の本件不動産につき、先に訴外会社の株式会社三井銀行(以下「三井銀行」という。)に対する債務担保のために設定されていた極度額金九〇〇万円の根抵当権を被告三井信託が譲受けることを承諾し、同月二二日、右根抵当権移転登記がなされた。

(三) 原告は、同年三月二六日、訴外会社から本件債務につき保証委託を受けたので、これを承諾し、同年四月二日被告三井信託に対し本件債務の連帯保証をした。

(四) 訴外会社が原告に対し前項の保証委託をするにあたり、訴外会社及び緑川は、原告との間で次のとおり約した。

(1) 原告が被告三井信託に対して訴外会社の前記債務を代位弁済したときは、訴外会社及び緑川は、原告に対し、連帯して原告の代位弁済額全額及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を支払うものとし、原告は、求償金全額につき、被告三井信託に代位しその緑川に対する一切の担保権を行使しうる。

(2) 緑川が被告三井信託に提供した担保が実行された場合でも、緑川は、原告に対し何らの求償をしない。

(五) 訴外会社は昭和五〇年六月以前に本件債務の履行を怠って期限の利益を失い、元本全額を即時支払う義務が生じた。

(六) 原告は、同月一三日、被告三井信託に対し、本件債務につき訴外会社に代位して元本五〇〇万円及びこれに対する年一〇・四パーセントの割合による昭和五〇年一月二二日から同月二五日までの損害金五六九八円の合計金五〇〇万五六九八円を弁済した。

(七) よって、本件根抵当権は右代位弁済(以下「本件代位弁済」という。)を原因としてその一部が原告に移転し、昭和五〇年六月一三日、その旨の付記登記が経由され、その結果、原告と被告三井信託とは根抵当権を共有することとなったが、原告と被告三井信託との間には前記(一)の貸付にかかる被担保債権が優先する旨の合意がなされていた。

(八) したがって、原告が本件代位弁済により取得した本件根抵当権の被担保債権として主張しうる金員は、代位弁済による求償債権元金五〇〇万五六九八円及び内金五〇〇万円に対する代位弁済の日の翌日である昭和五〇年六月一四日から配当期日である昭和五二年一月一三日まで訴外会社と被告三井信託との間の約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金一一一万二三二九円の合計金六一一万八〇二七円となる。

(九) ところが、東京地方裁判所は、配当期日において、原告の本件根抵当権により担保される求償債権額は、民法第五〇一条但書第五号により物上保証人緑川と原告の頭割り額であり、損害金については右金額に対応する年六分の割合であるとして、別紙第一売却代金交付計算書記載のとおり配当を実施した。

4  よって、原告は、別紙第一売却代金交付計算書のうち順位2、4の部分を別紙第二売却代金交付計算書のとおり変更することを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告三井信託

請求原因1、2並びに同3の(一)、(二)、(五)、(六)及び(九)の各事実は認める。同3の(三)中、保証委託日は知らないが、その余の事実は認める。同3の(四)の事実は不知。同3の(七)中、原告主張の登記が経由されたことは認める。同3の(八)の事実は否認する。

2  被告東京商産

請求原因1及び2の各事実は認める。同3は、(二)及び(七)の各登記が経由されたことは認めるが、その余の事実は不知。

三  被告らの主張

仮に原告主張の特約の存在が認められるとしても、被告らは、右特約に同意を与えておらず、その存在すら知らないのであるから、右特約は、被告らに対抗できない。

四  被告らの主張に対する原告の反論等

代位弁済者が代位をなしうる範囲は、弁済者(原告)と求償債務者たる物上保証人(緑川)の間のみで定まり、第三者との関係は本来考慮の余地がなく、同順位及び後順位抵当権者(被告ら)は、債権者が有していた根抵当権の全部の行使を甘受すべき立場にあるから、本件特約は被告らの利益を害するものではなく、債権者の有していた権利の範囲内では何らの公示方法なくして対抗しうる。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実は全当事者間に争いがない。

二  請求原因3の(一)ないし(三)の事実は、原告と被告三井信託との間では争いがなく(ただし、(三)のうち保証委託日は、《証拠省略》によりこれを認める。)、原告と被告東京商産との間では、原告主張の登記が経由されたことは争いがなく、その余は、《証拠省略》により認めることができる。請求原因3の(四)の事実は、《証拠省略》により、原告と訴外会社及び緑川との間で、求償権の範囲につき、「貴協会(原告)が前条第一項の弁済(代位弁済)をされたときは、貴協会に対してその弁済額全額およびこれに対する弁済の日の翌日以後の年一八・二五パーセントの割合による損害金ならびに避けることのできなかった費用その他の損害を償還します。」(信用保証委託契約書第六条)との約定が、原告と保証人との間の求償及び代位の関係につき、「(1) 貴協会が第五条第一項の弁済をされたときは、保証人(緑川)は貴協会に対して、第六条の求償権全額を償還します。(2) 貴協会が第五条第一項の弁済をされたときは、保証人が当該借入金債務につき金融機関(被告三井信託)に提供した担保の全部について貴協会が金融機関に代位し、第六条の求償権の範囲内で金融機関の有していた一切の権利を行なうことができます。(3) 保証人が金融機関に対する自己の保証債務の弁済をしたとき、または保証人が金融機関に提供した担保の実行がなされたときは、保証人は、貴協会に対して何らの求償をしません。」(同第一一条第三項)との約定がそれぞれあったことが認められる。請求原因3の(五)及び(六)の事実は、原告と被告三井信託との間では争いがなく、原告と被告東京商産との間では《証拠省略》によりこれを認めることができる。請求原因3の(七)の事実のうち、本件根抵当権につき本件代位弁済を原因とする原告主張の登記が経由されたことについては全当事者間に争いがなく、その余は、《証拠省略》によりこれを認めることができる。

三  次に本件特約の効力について判断する。

(一)  まず、本件特約の趣旨についてみるに、前記二で認定したとおり、原告と緑川は訴外会社が被告三井信託に対して負担する本件債務につき、原告(連帯保証人)と緑川(物上保証人)との間で原告に負担部分がない旨の約定をしたに止まらず、右約定に対応して、求償しうべき範囲を代位弁済額全額及びこれに対する弁済の日の翌日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による損害金と定めるとともに、原告が被告三井信託に代位弁済して本件根抵当権を実行する場合の代位の方法として、右求償権の範囲内で被告三井信託の有していた一切の権利を行うことができる旨の特約をしたものである。

(二)  ところで、主債務者から委託を受けた保証人の求償権について規定する民法第四五九条第二項の準用する同法第四四二条第二項は、当事者間に特約がない場合に適用され、当事者間に特約がある場合には、特約により遅延損害金の利率も定まることになる。

被告らは、右のような特約は同順位又は後順位抵当権者に対抗できない旨主張するが、求償債権の範囲は本来弁済者と求償債務者との間で定めうるものであるが、他方、物上担保についてこれを実現しようとするときは、弁済者は特約による遅延損害金をも含めた求償債権について代位される根抵当権の公示された債権極度額の範囲内でのみ抵当権を行使するのであるから、特約による遅延損害金を被担保債権としたからといって後順位抵当権者は何ら不利益を受けるものではない。また、これを同順位で根抵当権を共有する者との関係でみても、本来各共有者は、他の共有者の配当時における被担保債権額によって自己の受けうる弁済額が影響を受けることを甘受すべきところ、配当時の被担保債権額は約定の遅延損害金を含めて決定されるから、本件のように代位弁済による根抵当権の一部移転により根抵当権の共有が生じた場合においても、移転前の根抵当権者の約定の遅延損害金を含めた配当時の被担保債権額を基準としたからといって根抵当権の共有者である被告三井信託が不測の損害を被るとはいえないばかりか、原告の代位弁済前、被告三井信託は本件根抵当権につき、約定の年一四パーセントの遅延損害金を含めた額を、その被担保債権額とし、原告の代位弁済によりその債権の目的を達したにもかかわらず、代位弁済により同じ根抵当権を共有することになった原告が法定利率の範囲での遅延損害金を含めた額のみがその被担保債権額となるとするならば、根抵当権の共有者でもある被告三井信託は代位弁済を受けることにより本来予想しない利益を得る結果になるから、本件特約は同順位で根抵当権を共有する被告三井信託に対する関係においても有効というべきである。

(三)  さらに、本件特約の求償関係についてみるに、民法第五〇一条但書第五号の規定は、本来保証人と物上保証人との間の利害関係の調整を目的とするものであって、代位者と後順位抵当権者との利害の調整をはかるものではないから、保証人と物上保証人との間においてこれと異なる定めをするのに親しむ事項といいうるから、前記(一)のような特約がある場合には、同号の適用が排除され、弁済者は前記特約により求償しうべき全額について抵当権を行使できるというべきである。

この点についても、被告らは、右特約が同順位又は後順位抵当権者に対抗しえない旨主張するが、前示のとおり代位者は代位されるべき抵当権の公示された債権極度額の範囲で抵当権を行使しうるにすぎないものであり、後順位抵当権者は、もっぱら公示された先順位抵当権の債権極度額を前提にして自己の債権を後順位の抵当権で担保しようとするものであり、その先順位の物上担保被担保債権についてさらに保証人が存在するかについて公示されていないのであって、後順位抵当権者にとって考慮外の事項であり、同順位抵当権者にとっても同断といえるから、いずれにせよ、被告らに不測の損害を与えるとはいい難い。

四  以上の事実からすれば、原告は本件代位弁済により訴外会社に対し弁済金額金五〇〇万五六九八円全額及び内金五〇〇万円に対する代位弁済の日の翌日である昭和五〇年六月一四日から配当期日である昭和五二年一月一三日まで約定の年一四パーセントの割合による遅延損害金一一一万〇四一〇円(円未満切捨)の合計金六一一万六一〇八円の求償債権について抵当権を行使しうるものであり、しかも、前記二で判示したとおり、原告と同順位で根抵当権を共有する被告三井信託との間では、右債権が優先して弁済を受けるべきものであるから、原告は、右金額につき本件不動産の競売による売得金から弁済を受けうるというべきである。

そこで、これに伴い、別紙第一売却代金交付計算書のうち順位2・4の部分を別紙第三売却代金交付計算書のとおり変更することとする。

五  よって、原告の請求は、右の限度で理由があるから、これを認容することとし、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書及び第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 櫻井文夫 岡原剛)

〈以下省略〉

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